「もし、自分に10の力があるのなら、
それで100のものをつくるよりも、
1つのものをつくる。」

そうやって集約させることで、力をより十分に出せるんじゃないかって・・・そう思うんですよ。」というペリカンの渡辺さん。

何百、何千という種類のパンがバラエティ豊かにそろっている今の時代、この店で作られているのは食パン、ロールパンの2種類だけ。

そのスタイルは、昭和17年の創業の頃から続いている。「最初はジャムパンやクリームパンなど、他の店と同じような商品も作っていたんですけど、すぐに喫茶店で出すパン(戦後、一家の主人の唯一の息抜き場として喫茶店は大流行だった)も並行して作るようになりました。」

店を始めたのは父親だったが、渡辺さんは昭和30年代に入って大学を卒業すると、すぐにあとを継いだ。戦後は「ペリカン」のほかにも近所に雨後の筍のようにパン屋ができ、昭和30年代にはまさに飽和状態。そうなると当然、売れる店と売れない店が出てくる。

人と争うことが嫌いな渡辺さんは、他の店と競合せずにできる商売のやり方はないかと考えた末、菓子パン類をやめ喫茶店やホテルに卸すのを中心に、食パン、ロールパンだけに絞る。

「人間は普通に"こんにちは・さようなら"がいえる仲なのに、同業者で競合することによって、気持ちの食い違いが生じてしまったり・・・そういうことが、なんか嫌だったんですよ。そのかわり、この2つでは誰にも負けないものを作ろうと心に決めました。」

以来今日まで、新しいパンを作りたいと思ったことは一度もないという。

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