「親父が昔、しみじみ言ってたんです。
"香りの高いコーヒーとバタートーストの朝食は
最高だな"って。その言葉がずっと頭の中に
ありましたから・・・。」

父親は戦前からミルクホールや喫茶店を経営し、コーヒーには特にこだわる人だった。 コーヒーの飲みすぎで胃に穴があいてしまったので、やむなくコーヒーと訣別、パン屋を始めたのだ。

「自分でも、朝に食べるバタートーストとホットコーヒーって、こたえられないなという思いが、たしかにありました。 日本人なら、朝はふっくらと炊き上がったご飯と味噌汁という定番がある。でも、戦後はパン食がどんどん普及して、朝食にパンを食べる人が増えてくるはず。

そんな食卓に、本当においしいと思える食パンやロールパンを提供できたらいいなあという思いで続けてきたんです。」

年々、巷にはさまざまなパンが登場してくる。でもそこで次々とお客さんに迎合したパンを作っていくと、自分の志からはどんどん遠いところへいってしまう。だから方針は変えなかった。

「うちはうちのパン、とはっきり打ちだして、気に入ってくれる人が来てくれればいいんだという気持ちでした。」

子供の頃からパン作り一筋だったが、学校の友達からはいろいろなことを教わったという渡辺さん。

「父が胃をこわして入院したんで中学を休学して店を手伝ったでしょ。私は長男で、その頃は年下の人間はみんな自分より劣っているって思いこんでたんですよ。 でも、1年遅れて復学して年下とちゃんと接してみると、年は下でも頭のいいやつとか体力のあるやつがいるんだというのをすごく実感したんです。あたりまえのことなのに、それまでわからなかったんですね・・・。」

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